2012年2月12日日曜日

異文化マネジメント?:【書評】これならわかる! 『論語』


これならわかる! 『論語』 (学研ムック)
齋藤孝 4056065462
最近のマイブーム。「論語」。
ベトナムでも使えるかなと、思って。


ある時、ひらめきました。「論語」を下地にしたマネージメントがベトナムで有効ではないか?と。
一見、日本とベトナムという全く異なる文化・価値観を持った国。しかし、中国から受け入れた共通のものを下地にするれば、日本人とベトナム人が共有できる価値観が見えてくるかもしれない、と思ったのがひらめきの理由です。
特に、儒教が根付く日本とベトナムなら、論語はもってこいかなと。


ところがこの推論、あっという間に崩れ落ちました。ベトナム人に「論語」について聞くと、論語は中国文化を学ぶ一部の人が学ぶもの。多くのベトナム人は特に気にも留めない考え方だとか。
しかし、一度火がついてしまった僕の心はこんなことではくじけません。ベトナム人は無意識に論語の価値観を日常生活や商売上でも実践しているはずだ!と。
実際本書を読み進めると、無意識に共有している価値観がはけっこう見つかります。
例えば、ベトナム人が理想とする上司像。本書の「論語」論で語られる「君子には九思あり」という言葉は日本でもベトナムでも評価を受けそうです。
論語の九思
視(み)るには明(明るい)を思い
<きっちりと客観的に、明瞭に物事を見ているか?>
聴くには聡を思い
<バランス感覚を持って、人の話をよく聞けているか?>
色には温(おん)を思い
<顔つきは穏やかであるか?>
貌(かたち)には恭を思い
<人に対して丁寧であるか?>
言(げん)には忠を思い
<自分が言ったことに、忠実であるか?>
事あるには敬を思い
<物事を進めるときは、慎重であるか?>
疑わしきには問いを思い
<何か疑問があったとき、質問できるか?>
忿(いかり)には難を思い
<腹の立つことがあっても、心を抑えているか?>
得るを見ては義を思う
<自分の損得ばかりでなく、筋道を考えているか?>
僕にはまだ実践できていない部分が多いなと実感する言葉の数々ですが。しかし、漠然とダメ上司と嘆くより、自分自身の穴が明確になります。
「論語」的価値観は共有できる部分が多く含まれているようにも思います。異文化マネジメントとして、論語はベトナムで使えるという期待を持たせてくれます。



一方、「論語など、一部の人が勉強すること」というベトナム人の指摘も多いに分かります。特に、本書の第4章「現代のビジネスにも通ずる極意」。不思議なことに、ベトナム人との日常業務で心理的な距離やズレを感じる言葉が一番掲載されてい箇所でもあります。
例えば、
子曰く、
力足らざる者は中道(ちゅうどう)にして廃(はい)す。今、汝は画(かぎ)れり。
⇒自分自身の限界を設定して、やらない言い訳をしている
独立を考える野心家のベトナム人は支持しそうな考え方です。その反動なのか、会社勤めを選ぶ人は真っ向から反対しそうな考え方。「新しいことはリスクも多く、面倒だからやりたくない。」そんな気持ちが見え隠れして…。そこをやる気にさせるのが僕の仕事なのですが。
子曰く、
君子は諸(こ)れを己に求む。
小人は諸(こ)れを人に求む。
⇒君子は事の責任・原因が自分にあると探り、小人は他人に求め、責任転嫁をする。
ここが、一番心理的・文化的な違いを感じるところです。「失敗は無能なものがするもの」。この価値感情は日本人以上にベトナム人に強く働くように思います。逆に、言い訳や責任転嫁をするベトナム人が小人にみえてしまい…。
しかし、「論語など一部の人が勉強するもの」であるベトナムにおいて、この論語が指摘する価値観を体現する必要はないわけです。むしろ大事なのは「失敗したら無能」という価値観への対処。
言い訳をしたベトナム人を見て、小人だなと思う自分がよけいに小人に見え…。なんとも越え難い心理的ギャップです。
と、勝手に書いてきましたが…。
ベトナム人にとって論語は絶対的な「善」の価値として、特に仕事上では日本人ほど認めていないようです。


「論語的価値観に基づくマネジメントがベトナムで有効」という僕のひらめきは、使える言葉もあるけれど、使えない言葉もあるというの今のところの結論です。
ということで、まず論語の言葉の数々を日本人とベトナム人の共通点と違う点を理解する切り口として使おうと思います。資本主義の父、渋沢栄一氏も「論語と算盤」のなかで、「論語を体現すれば、信用が得られる」と言っていました。少なくとも日本人が大切にしたい考え方が論語には凝縮されていると思います。価値観の違いが分かれば、その対処法もみえてくるような。
だから、論語のマイブームは、当分続けようと思います。
「新しいテーマを理解するためには、見栄の本格派より絵が多い入門書」とは僕の信条。マイブームが続く限り、本書は何度も振り返りそうな一冊となりそうです。

これならわかる! 『論語』 (学研ムック)
齋藤孝

これならわかる! 『論語』 (学研ムック)
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