2012年2月11日土曜日
どうしたDELL!:【書評】デルの革命 - 「ダイレクト」戦略で産業を変える
デルの革命 - 「ダイレクト」戦略で産業を変える (日経ビジネス人文庫)
マイケル デル
今さらなのだが。
最近、影が薄くなり始めているDELLの創業記を読んでみた。
本書「DELLの革命」は同社が元気だった1999年に執筆されたものです。当時僕はカナダにいました。カナダで頻繁に聞いPCメーカーといえば、日系各社、AcerそしてGatewayやコンパック、ヒューレッド・パッカードやDELLなどの欧米各社。
そして約10年がった2012年の今。この勢力図も大きく変わってしまったように見えます。頭一つ飛び出したACER、Gatewayは今やどこにも見かけません。コンパックとヒューレッド・パッカードは合併してしまいました。日系各社のPC市場の存在感は以前ほどの勢いを失い、DELLにもその勢いに陰りが見えます。たった10年間でこれほどまで変わるPC業界。怖いです。
それにしても、なぜに今さらDELLなのか。理由は2つです。当時の僕が「10万円以上するPCが通販では売れない」と勝手に予想して、見事この予想を外れさせられたから。そして、予想を外れさせられたDELLが、スマートフォンやタブレット市場への参入が遅れたせいか、最近めっきりその名前を聞かなくなったから。
つまりは、「どうしたんだDELL?」という、心配と好奇心の混ざり合った感情がふつふつと僕の中で湧きあがってきたからです。
本書を読むと、DELLという会社は日本企業なのか?と思わされます。本書内で何度も強調される、「『顧客に学べ』とする精神」、「サプライヤーとの協力関係の重要性」、さらには「『従業員があっての会社』という精神」など。まるで、DELL社の試みは日本で語られる商売成功の秘訣を体現しようとしてきた歴史に見えてしかたありません。
欧米系のビジネス書籍、特にアメリカの経営書が執筆者の場合、「サプライヤーとの協力関係構築の重要性」を指摘した書籍には滅多にお目にかかれません。むしろ、「株主重視」の考えが強く働くのか、会社の業績上昇を通じた株主への利益還元にどれだけ苦心したか。それがメインとなります。
同じように創業者兼経営者のマイケル・デル氏が執筆する本書。そのあまりにも異なるその内容に、マイケル・デル氏は相当な日本シンパでなかろうかといった疑問すら湧いてきます。
ところが、アメリカで異質と思われ、半ば日本式経営を体現しようとするDELLはかつての勢いを失いつつあるように見えます。これは日本式経営を体現しようとしたせいなのか?とりわけ、ITという動きが激しい業界では、日本式経営は通用しないのか?現在のDELL社の状況を頭に描くと、やっぱり、日本式経営は綺麗事なのかなといった感覚すら、今本書を読み返すと芽生えてきます。
僕がDELLに元気がないと思うのは、空前のブームと言われるスマートフォンとタブレット市場に出遅れを僕が感じているからです。この原因はどこにあるのか。本書の小見出し「次に来るものを見分ける」は、この原因を探るドンピシャなトピックがありました。
本書内ではペン入力のモバイル・コンピュータにの製品投入について検討した様子が紹介されています。当時、IBM、コンパック、東芝、アップルなど名だたるPCメーカーは同製品が次世代の主力となるという見解で一致していました。しかし、実際には同製品が市場を席捲することがなかったのは、知ってのとおりです。
本書によるとこの時、DELLは製品投入もせず、製品研究も実施しませんでした。そして、これが一つの成功体験になっています。実際にマイケル・デル氏が同製品を体験利用し、テクノロジーとして時期尚早と判断した結果です。また、顧客の要求に全て答えるのではなく、時には「できません」と顧客へアドバイスすることの重要性も含めて、指摘されています。
この経験から見えてくることは、「ペン」入力から「指」入力に変わったテクノロジーの登場を前にして、かつての成功体験にDELL社は固執してしまった。そして、顧客やサプライヤーとの会話から、「ペン」から「指」に代わるべきという次世代の次世代までを予見することができなかった。
「顧客は自分が欲しいものを知らない」と言い切ったのはアップルの故スティーブ・ジョブス氏です。この言葉を借りれば、顧客とサプライヤーとの会話を重視する日本式経営は、次世代の次世代の商品やサービスを見越すこが得意ではないとなるのかもしれません。
この辺に、DELL社がタッチパネル市場に製品投入が遅れた原因があるように思えます。
ところで、仮に僕が当時のマイケル・デル氏と同じ立場だったら、同じ判断ができただろうか?ライバル各社が次世代の主力商品として躍起になっている姿を見て、「これは来ない」と判断できただろうか?その自信は全く僕にはありません。
また、「ペン」が「指」に変わった現在のタッチパネル方式のような、次世代の次世代のテクノロジーの登場自体と、その登場するタイミングを予見できただろうか?これについても、自信がありません。
自分がその立場だったらと置き換えた時、いくつものメッセージを本書は発してくれます。そのため、本書をDELLの成功物語と片付けてしまうのはもったいないです。むしろ、DELL社の成長の基礎となった、半ば日本式経営の限界と可能性について、再度考えるための最良な題材を提供してくれる教材として、読み返したい一冊です。
デルの革命 - 「ダイレクト」戦略で産業を変える (日経ビジネス人文庫)
マイケル デル
by G-Tools
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