2012年2月5日日曜日

数学嫌いですが:【書評】哲学的な何か、あと数学とか


哲学的な何か、あと数学とか
飲茶
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飲茶氏著作の第2弾。
前作の「哲学的な何か、あと科学とか」も良かったけど、こちらも◎。


僕は数学は苦手だし、嫌いです。
中学校まではなんとか理解できたけど、高校数学のレベルになるとからっきし駄目。理解しようという意欲すら湧きません。大学の学部選びも、「何を学びたいか」といった積極的な理由ではなく、「数学が必要ないテーマの学部」といった消去法で選んだぐらいです。
「数学なんかこの世からなくなればいいのに!」と、心の底から何度おもったことか。
数学ができないという半ばコンプレックスの一方で、無意識に働いてしまう数学に対する憧れや好奇心といった感情。嫌いだから絶対にそばには寄りたくないけれど、一生「知る」ことなしに人生が終わってしまう寂しさに似た気持ち。僕には数学に対する屈折した感情が同居しています。
本書「哲学的な何か、あと数学とか」との出会いは、僕の数学に対する屈折した感情をかなり素直な感情に変えてくれた、画期的な本になります。数学そのもののが理解でたのではなく、数学の公式の根本的な意味と、その周辺にある人生ドラマを知ることができたという意味で。
本書が取り扱うのはフェルマーの最終定理とその証明に命をかけた歴代数学者たちの物語。「フェルマーの最終定理とは何か?」から始まり、この定理の証明に果敢に挑んだオイラー、ソフィーやガウスといったプロの数学者から、ヴォルフスケール賞の創設者でもある数学愛好家のパウル・ヴォルフスケール氏など。誰が、どの部分をどのように解を導き出していったのか、その物語を展開していきます。
本書に登場する数学者達



本書が僕の数学に対する屈折した気持ちを素直な気持ちにしてくれたのは、単純に数学者の伝記をまとめたものとは一線を画しているからです。フェルマーの最終定理という何百年にわたって数学者が人生をかけて取り組んできた難問を、数式の羅列ではなく、言語でその意味を説明してくれたから。
そもそも、僕自身は「素数ってなんだ?」とか「虚数ってなんだ?」といった認識のレベルです。フェルマーの最終定理の問題文を理解するのに必要最低限の知識すら持ち合わせていません。
この程度の知識量の僕が、数百年にわたって数学者を悩ませてきた問題の意味と、その悩ませてきたポイントの概要が本書を通じて理解できるわけです。この驚きにも似た感動を分かってもらえるでしょうか?
ところで、フェルマーの最終定理とは以下のこと。これを数学的に証明することに、歴代の数学者たちは命をかけます。確かに、nが2ならば、X=3、Y=4、Z=5が成り立つけど、nが3の時はどの数字を入れても成り立たない…。
フェルマーの定理
何かに一生をかけるのは美しく見えます。それが、経済的な豊かさが全くもたらされず、「名誉」だけしか得られない点も心をくすぐります。本書にもあるように、自殺を考えていたパウル・ヴォルフスケールを救ったのもフェルマーの定理であり、数学でした。
だからこそ、多くの人が人生を数学にかけたのでしょう。そして、皮肉なことに多くの人がこのフェルマーの最終定理に向き合うことで、人生そのものを棒に振ってしまいます。その様子が本書でも描かれており、読みながらもやるせなくなってくる部分です。
だから、余計に本書を読んで、「数学が得意でも、好きでもなくてよかった」と心から思う自分自身がいました。まだ、屈折した数学への感情は完全矯正とはいっていないかな?
ところで、本書は「フェルマーの最終定理」のパクリかといった指摘もあるようです。真偽のほどは同書をまだ読んでいないので、よく分かりません。
目次だけを見ると、似ているような似ていないような…。数学初心者のとっつきやすさという点では本書「哲学的な何か、あと数学とか」の方に分があるかなという印象です。そのため、仮にパクリが本当だったら本家本元に大変失礼ですが、まずは本書を読んでから本家本元を読んだ方が、確認しやすいかもしれません。
また、本書の著者飲茶氏の前作「哲学的な何か、あと科学とか」も私の琴線に強烈に響いた一冊として本ブログで紹介しています(そもそも論で語る:【書評】-哲学的な何か、あと科学とか)。暇つぶしにどうぞ。
僕が一番関心を持っているのは、著者の作品よりも著者の生きざまです。ネット副業をやって、それをブログで公開したり。哲学好きが高じて、起業した様子をブログで公開したり。傍から見ると破天荒な生き方ですが、「人生で自分のやりたいことをするためにどうするか?」というテーマに向き合い、悪戦苦闘する著者の姿が自分と少しダブってきます。
本書を読んで生き方を考えるもよし、数学の扉を開けてみるもよし。両方できるのが本書の魅力だと思ます。

哲学的な何か、あと数学とか
飲茶

哲学的な何か、あと数学とか
史上最強の哲学入門 (SUN MAGAZINE MOOK) フェルマーの最終定理 (新潮文庫) 時間は実在するか (講談社現代新書) 時間はどこで生まれるのか (集英社新書) 無限論の教室 (講談社現代新書) by G-Tools

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