Vespaといえば、ベトナム人にとって大人気のイタリア製スクーター。
でも、どうしてこんなに人気があるのだろう?そんな疑問を持っていたら、欧米人も疑問だったようです。Forbes(電子版)に「How the Vespa Became Vietnamese」の記事があったので、ご紹介。
1.ベトナム二輪車市場ーVespa恐れるに足らず?
Vespa人気を見る前に、ベトナム二輪市場をざっくりと振り返ってみます。生産台数と販売台数の推移は以下の表のとおり。販売台数は約330万台、生産台数は約300万台と言われています。
また、日系2輪車メーカーの市場シェアは8割程度と言われています(出所:Mizuho Industry Focus Vol.97)。その中でもHondaが圧倒的な市場占有率を誇り、YamahaとSUZUKIが追随するという構図があります。
実際のHondaとPiaagio社の生産・販売台数を比較すると、その規模の違いがより明確になります。
Piaggio社 | Honda社 | ||||
---|---|---|---|---|---|
第Ⅰ期 | 第Ⅱ期 | 第1工場 | 第2工場 | 第3工場 | |
進出年度 | 2007年10月 | 2012年6月 | 1997年12月 | 2008年7月 | 2012年後半 |
進出場所 | ビンフック省 | ビンフック省 | ビンフック省 | ビンフック省 | ハナム省 |
生産能力(年) | 5万5千台 | 30万台 | 100万台 | 100万台 | 50万台 |
従業員数 | 400名 | ― | 3,800名 | 3,900名 | 1,800名 |
販売台数(年) | 6万7千台(2.5%) | 172万台(64.5%) | |||
備考:カッコ内は市場占有率 出所:Frobes(電子版)、Honda社WEBサイト他 |
Honda社がベトナム全土の販売台数64.5%を占め、172万台を販売しているのに対し、VESPAを販売するPiaggio社は6万7千台程度と、その市場占有率は2.5%程です。
市場占有率だけを見ると、「VESPA、恐れるに足らず」です。
しかし、興味深いのはその販売価格帯です。日系を含め、多くの2輪車メーカーは普及帯価格と言われる500ドルから1,000ドル程度で販売が主流です。
一方、VESPAやPiaggioを手掛けるPiaggio社は同価格帯の約3倍、3,000ドル以上のいわゆる”プレミアム市場”で勝負をしています。特に、性能が優れているわけでもなく、デザインがかっこいいというだけで…。
参考までに、ベトナムの一般ワーカー月額平均給与は約100ドル、また一般オフィス勤務スタッフは約500ドルと言われています。つまり、Piaggio社が狙った”プレミアム市場”とは、ワーカーの給与約2.5年分、一般スタッフの月額給与の約6カ月分となる価格帯での勝負です。
2.Piaggio社好調の4つの秘訣
Forbes(電子版)の記事「How the Vespa Became Vietnamese」から、4つほどその成功の秘訣が見えてきます。
【Piaggio社のベトナム販売戦略の秘訣】
- 最初の投入製品「VESPA」のデザインと仕様をベトナム市場向けに変更しなかった。
- 既に出来上がっていた二輪車市場のプレミアム価格帯を開拓し、その先駆者かつリーダーとなった。
- リーダーとなった後は販売店網を拡充し、別ブランド「Piaagio」を投入した。そこには現地テーストを加味したデザインと仕様に加え、若干低価格で製品を投入した。
上記4つのうち、特にデザインと仕様の変更については多くの専門家から当初は非難があったようです。しかし、経営陣は決してその指摘を受け入れなかったようです。
この背景には既にVESPAが多数ベトナムで販売されていた実績があったことも見逃せません。もし販売実績がなければ、デザインや仕様を現地に合わせて変更するかは、かなり難しい判断となるでしょう。
欲を言えば、Forbesの記事が「なぜ、VESPAがベトナムで販売好調だったのか?」まで掘り下げていれば、その奥にある成功の秘訣も見えてくるのですが。
3.VESPAの成功の秘訣からの応用は可能か?
VESPAの成功の秘訣からいくつか、ベトナム進出のカギが見えてきます。
- プレミアム価格帯を攻めるなら、本国のデザインと仕様は変更してはいけない。
- しかし、プレミアム価格帯を攻めるなら、取り扱い製品・サービスについてベトナム人の認知が出来上がっている必要がある。(ベトナム人にとって、「バイク」は既に目にできるものであった。)
- プレミアム価格帯を攻めるなら、ブランドリーダーへと一気に駆け上がる必要がある。
- プレミアムから低価格へシフトするには、「若干」のシフトであり、「大胆」な価格シフトではない。そして、販売網の確保がカギになる。
日本企業の進出パターンはプレミアム価格帯から攻め始め、次第に低めの価格帯を攻めていくことが常套手段のようです。いわば、VESPAと同じ戦略です。
しかし、ここで大きく立ちはだかる壁は「ベトナム人はまだその商品やサービスを知らない」という商品・サービスの認知度の問題です。
ここで、ベトナムで元気な日系企業を見ると、どの会社も低価格帯を攻めきった会社が目立ちます。バイクのHonda、インスタントラーメンのエースコック、味の素、ヤクルトなど。どの企業も大胆なデザイン・仕様変更を行い、ベトナム市場の低価格帯を攻めきっています。
さらに、韓国Sumsung社は現地に合わせた仕様を取り入れ、低価格帯へいち早く製品を市場投入していきます。VESPAと全く逆の戦略です。
プレミアム市場から攻めるか、低価格帯から攻めるか。本来であれば、誰の頭にも浮かぶ簡単な2者択一の選択肢。しかし、ベトナムでは殆どの商品・サービスがまだ認知されていないという現実もあります。ここでプレミアム価格帯を単純に選んでしまうと、自分自身で市場自体を作り出す必要があるという、とんでもない労力が発生する可能性があるかもしれません。
こりゃ、たまらんわ!
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