「いらっしゃいませ」と言えない国: 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂 (新潮文庫)
湯谷 昇羊
今年1年の海外進出関連本として、印象に残った1冊になるかも。
「負傷者多すぎでしょ?!」。
本書を読み終えた時の率直な感想です。本書には中国への赴任後に体調不良となるヨーカ堂の社員がこれでもかと登場します。
体を壊すまで、やる必要はあるのかなと。
帰国後にそれなりの処遇を得ることができたのかなと。
ついつい余計な心配までしてしまいます。
ところで、なぜヨーカ堂が中国でここまで成功できたのか。
本書にある中国事業責任者、塙氏の言葉がふるっています。
「日本人が頑張ったのが第一」
一番に上がる答えが日本人の頑張りです。
現地の人でもなく、自分でもなく。日本人社員の頑張り。
他のインタビューでは、ニュアンスが違っているようですが。
成都はいまだ売り上げ二ケタ増! イトーヨーカ堂中国はなぜ強いのか 塙昭彦 イトーヨーカ堂取締役中国総代表に聞く
逆に、本書で一番腹立たしく、逆に「発奮材料となった」ことは、
日本本社からのお偉いさん達の現場視察。
「分かりきったことを言って、帰る」その姿に、
日本人駐在員全員が悔しさと怒りに包まれたようです。
これ、ベトナムでもよく聞きます。
ヨーカ堂でもそうだったのかと、思わず吹き出しました。
ここで、「日本人の頑張りが第一」という言葉、
凄く単純ですが、深い意味を含んでいるなと思います。
つまり、頑張らないと、誰もついてこない。
でも、頑張り方を間違えても、誰もついてこない。
そうなんです。当然、皆、頑張っているんです。
でも、頑張るだけでも結果が出ないのです。
頑張り方の正解を見つけ出さないと。
本書でも、頑張り方を間違えたシーンがいくつも描かれます。
例えば、「いらっしゃいませ」の研修。
「いらっしゃいませ」の練習を何度しても、
中国人スタッフはそれが言えない。
その研修担当の日本人は、結果が出ないことで、
どんどん焦っていきます。
さらに、中国人スタッフは日本スタイルに反発して、
辞めていきます。
結果、心身ともに、この担当者はやられていきます。
これ、耐えられないです。
このようなケースが本書には、いくつも触れられていきます。
だから余計に、「日本人の頑張りが第一」と答えた塙氏の言葉に、
奥の深い、色々な意味を感じさせられます。
「負傷者が出ても続ける」
これが、海外進出成功の要因の一つかもしれません。
ヨーカ堂の海外進出の事例は勉強になると思います。海外でも利益を上げているだけではなく、グループトップの売上と利益です。凄いです。
例えば、下の数字。
成都ヨーカ堂が日本国内の店舗を含めて
売上と利益で1位になっています。
【成都双楠店(2号店)】 売 上:1位(全ヨーカ堂192店舗中) 利 益:1位(全ヨーカ堂192店舗中) 【成都錦華店(3号店)】 売 上:9位(全ヨーカ堂192店舗中) 利 益:4位(全ヨーカ堂192店舗中) 【北京亜運村店(3号店)】 売 上:34位(全ヨーカ堂192店舗中) 利 益:5位(全ヨーカ堂192店舗中) ※2012年3月末時点 ※出所:「いらっしゃいませ」と言えない国 あとがき(p.362) |
これを成都市内の他小売店と比較したのが、下の数字。
ヨーカ堂がダントツです。
【成都市他社小売り店比較(2011年)】 王府井百貨店(1店舗)=33億元 太平洋百貨店(2店舗)=7億元 人民商場(2店舗)=27億元 カルフール(7店舗)=18億元 ウォールマート(4店舗)=7億元 伊勢丹(1店舗)3.5億元 成都ヨーカ堂(5店舗)=49億元 ※ヨーカ堂のみ2012年データ ※出所:※出所:「いらっしゃいませ」と言えない国 あとがき(p.363) |
本書によると、中国連鎖店(チェーンストア)100強において、
成都ヨーカ堂の1店舗あたりの売上高は
中国国内1位となるようです。
なお、下記も本書に記されていた成都と北京ヨーカ堂概要です。
【華糖ヨーカ堂(北京)】 店舗数:8店舗、うち中国人店長数:7店舗(女5人/男2人) 総社員数:1,382人(パート除く)※日本人従業員数:12人 全店舗従業員(パート込)数:8,400人 売上:25.4億元(約380億円) 年間レジ通過数:1,880万人 【成都ヨーカ堂(重慶)】 店舗数:5店舗、うち中国人店長数:5店舗(女2人/男3人) 総社員数:3,200人(パート除く)※日本人従業員:16人 全店舗従業員(パート込):17,400人 売上:48.9億元(約730億円) 年間レジ通過数:2,740万人 |
最後に、本書の著者、湯谷昇羊氏は、
ダイヤモンド社の元取締役、
かつ週刊ダイヤモンドの元編集長です。
だから、筆致が滑らかで読みやすい。
湯谷氏の主な作品は、下記のとおり。
「いらっしゃいませ」と言えない国: 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂 (新潮文庫)
湯谷 昇羊
by G-Tools 最後に、本書の関連書籍。
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