ミャンマーの柳生一族 (集英社文庫)
高野 秀行
「細かいことをつべつべ言わずに、ギュッと相手の心を鷲掴みにする」とは筆者の弁。
ミャンマーって、てどんな国?という問いに、「ザックリ言えばこんな国」という回答が本書には詰まっていた。
クリントン国務長官のミャンマー訪問以来、一気に海外投資先としてのミャンマーが注目を集め始めました(「門戸開放」するミャンマー、外資に8年間免税を導入へ)。
これは欧米企業だけではなく、日本企業も同じです。ミャンマー投資セミナーは数年前から毎回満席状態でした。聞くところによると某都市銀行の投資セミナーでは、インド、ベトナムに次ぎ、ミャンマーは3位の集客数だとか。一気にミャンマー進出が世界中で具体化し始めている様相です。
ところが、ミャンマーに関する情報はベトナム以上にない。これまで、半ば「鎖国」状態だったので、当たり前と言えば当たり前なのですが。
ということで、手に取った本書。本書の執筆者、高野秀行氏はミャンマーとはゆかりが非常に深い人です。本書で知ったのですが、1994年以降のミャンマー訪問は非合法でしか入国しかしたことがないほど。本書は船戸与一氏の取材旅行への同行が下地ですが、これが久しぶりの合法的な入国とあるから、驚きです。筆者にとって、「ミャンマーは非合法に入国する国」だとか。こんな人が書いたミャンマー本は読まなければ損、とばかりに本書を手に取りました。
筆者高野氏のポリシーは「誰も行かない所へ行き、誰もやらないことをして、誰も知らないものを探す。そして、それを面白く書く(高野氏公式サイト)」。本書でもこのポリシーを貫いています。
「面白く書く」その真骨頂は本書のタイトル「ミャンマーの柳生一族」から始まっています。一見わけのわからない「ミャンマー」と「柳生一族」の組み合わせ。現在のミャンマーを、かつて「鎖国」をした江戸幕府になぞらえ、軍の私的諜報機関を江戸時代の隠密といわれた「柳生家」になぞらえたものです。少数民族が力を結集しるモン州、カレン州、シャン州、ワ州などは江戸時代の外様大名だったりと。この一見無茶苦茶な”あてがい”がミャンマーの全体像をしたい僕の心を「ギュッと鷲掴み」されました。
この江戸幕府”あてはめ”理論は、その細部にまでわたります。江戸時代の中央幕府と諸藩や諸藩同士のバランス・オブ・パワーの関係が、多民族国家ミャンマーでも、似たように機能していること。
また、ミャンマーは軍政だから安定政権と思いきや、3代目将軍家光の時代にあった隠密派と老中派の内部抗争が、現代のミャンマー軍事政権内でも起きたこと。
さらにはミャンマー独立の立役者アウン・サンから、2代目ネ・ウィンや3代目タン・シェまでの流れや、アウン・サン・スー・チーとの正当性を巡る争いやその確執など。
挙句の果てには他人との距離感を取ることが上手なミャンマー人気質までも、この江戸時代”あてがい”理論で説明していきます。
この徹底ぶりからも、筆者が長年にわたりミャンマーと向き合ってきたことが垣間見えます。
その他、江戸幕府”あてがい”理論とは別に、麻薬王初代ロー・シンハ、2代目チャン・チーフ―(別名クンサー)、3代目パオ・ユーチャン(別名タ・パン)達の成り立ち。国内宗教問題から、親切すぎるほど親切で読書家なミャンマー人気質など。本書で語られるテーマは多岐にわたります。
これらが、船戸与一氏の小説取材の珍道中とからめられ、筆者のボヤキが加わり、そして、愛すべき諜報部員らしき同行者とのやり取り。その珍道中ぶりたるや、思わず読む進めながら噴き出してしまいそうになります。
江戸幕府”あてがい”理論を持ち出し面白おかしく語れるには、ミャンマーと深く向き合っていないと不可能でしょう。ミャンマーを知りたければ、この本を読まなければ損。まさにそんな1冊でした。
参考までに、下の書籍はこの珍道中(?)で生まれた船戸与一氏の小説( 文庫版)。同書のハードカバーは本書と同じく2006年の出版です。
河畔に標なく (集英社文庫) 船戸 与一 集英社 2009-07-16 by G-Tools |
アヘン王国潜入記 (集英社文庫) 高野 秀行 集英社 2007-03-20 by G-Tools |
西南シルクロードは密林に消える (講談社文庫) 高野 秀行 講談社 2009-11-13 by G-Tools |
ミャンマーの柳生一族 (集英社文庫)
高野 秀行
by G-Tools
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