2012年2月26日日曜日
おしい1冊:【書評】ミシュラン 三つ星と世界戦略
ミシュラン 三つ星と世界戦略 (新潮選書)
国末 憲人
秘密のベールに包まれているミシュラン社。同社の”世界戦略”に興味があったのだけど…。
「ガイドブックはタイヤを売るため」なのはご存知のとおり。しかし、ミシュランと言ってまず思い浮かぶのが「タイヤ」より「Michelin Guide Paris 」といったガイドブック。これほど副業(?)が有名な会社も珍しい。
なにゆえ、本業も副業も世界的な知名度を得るまでになりえたのか?そもそも、副業のガイドブックが本業の「タイヤを売るため」に役立っているのか?このあたりの秘密を探るために本書を読んでみたのですが。
結論を先に書くと、本書にこれらの疑問に対する明確な答えはありませんでした。締め切りを焦るがあまり、アイデアがまとまる前に出版してしまったような…。
面白い情報が随所に含まれているがゆえに、非常に「おしい」1冊という印象です。
それなら、この「おしい」1冊を「おいしい」1冊に変えるべく、勝手に編集者気分で、以下のように提案させてもらいます。
まず、本書の半分以上を占めるフランス料理界の記述を別の本とする。この部分は「ミシュランガイドとフランス料理界」をテーマに読み進めれば、「なるほど」の連続です。
例えば、3つ星を取得するための各レストランの戦略やその実態、シェフのキャリアアップ戦略。また、フランスの歴史的背景にともなう、星付きレストランのロケーションの特徴。さらには分子料理法やビストロ形式の発達など新しい料理界の動き。
これらのテーマに興味をそそられませんか?僕がこれまで持ったことがない視点ばかりで、別の本で一度読んでみたたいテーマです。
そして、次のポイントはミシュラン社に関する記述をもう少し整理する。
本書では既に様々なミシュラン社に関する記述はなされています。本書によると同社に公式の社史もなければ、情報公開にあまり積極的ではないようです。そんな中、貴重な情報が多く本書には含まれています。
例えば、ミシュラン社の創業秘話やミシュランガイドが生まれた経緯はもちろん、現在も創業者が多大な影響力を持つ背景に、無限責任を負う株式合資会社の形態があること。
同社がパリに本社を置かず、創業の地クレルモンフェランにこだわる理由やミシュラン社トップ、ミッシェル・ロリエ氏へのインタビューなど。
本来であれば、限られた情報源の中で貴重かつ多大な情報量が本書には収められています。しかし、それぞれの情報が断片的な紹介にとどまっていて…。
ミシュラン社についての日本語情報が限られている中、本書には有益な情報が多数含まれています。この部分では十分に「おいしい」一冊です。
しかし、その情報は読者が自力で読み解く必要があり、ストーリー性では「おしい」と思った一冊です。
ところで、ミシュランといえば頭に浮かぶ左のキャラクター。「ビバンダム」って言うんですね。マニアもいるみたいで、毎年ミシュラン社の本社クレルモンフェランでオークションも開かれているとか。この辺の様子も本書にはあります。
なお、本書の著者国末憲人氏は現在「GLOBE」の副編集長です。他には「サルコジ―マーケティングで政治を変えた大統領 (新潮選書)」、「自爆テロリストの正体 (新潮新書)」や「ポピュリズムに蝕まれるフランス」などを執筆しています。
ミシュラン 三つ星と世界戦略 (新潮選書)
国末 憲人
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