ソフト・マネジメントスキル―こころをつかむ部下指導法
ロッシェル カップ Rochelle Kopp
異文化で働くというのが大変なのか。
それを言い訳にされることが、大変なのか。
ところで、問題です。下記のコメントは誰が言っているでしょうか?
- 部下の仕事水準が低くてもその人に何も言わない。何も対策を取らない。
- 部下に対して激しく怒ったり、怒鳴りつけたりする。
- 部下に明確な支持を与えない。その部下は何をすればいいのか分からず、上司が期待している仕事をしない、できない。
- 部下の満足度と士気が低く、異常といえるほど頻繁にミスが起こり、欠勤率や離職率が高くなる。
- できる部下は自分が高い評価を得ていないと思い、やる気を失ったり、辞めてしまったりする。
ほぼ、毎日のようにベトナムで聞くフレーズとそっくりです。何かをこちらが言うと、半ば言い訳のごとく返してくるベトナム人のフレーズとそっくりです。
これを言い訳としてではなく、正当な言い分として真摯に受け止めなければならないのは分かっているんです。でも、どうしてもそう思えない、ちっぽけな自分がいます。「それで、お前らはどうなんだ!」と。「お前ら文句を言う前に、自分の仕事をきちんとこなしているのか!」と。
この相手の言い分を真摯に聞かなければいけないとするのが本書の主張。真摯に耳を傾けなければ、悪循環なままなので、ソフトスキルを身につけ、好循環へと変換しなければならない。本書はそのための指南本です。
ここでタネ明かしをしておくと、上記の答えは、日系アメリカ企業で働くアメリカ人の日本人上司評です。ベトナム人にもアメリカ人にも同じように映るようです。日本人は。
目 次: 第1章 ソフトスキルの強化がなぜ大切か 第2章 ソフトスキルの基盤となるもの 第3章 ネガティブ・フィードバックを伝える 第4章 コーチングとカウンセリングを活かす 第5章 ポジティブ・フィードバックを与える 第6章 パフォーマンス・マネジメントを進める 第7章 ジョブ・ディスクリプションをつくる 第8章 人材のリテンションを進める 第9章 ケーススタディ・こんなときどうする? |
本書は日本での勤務経験もあり、アメリカ進出日系企業へのコンサルタントを行うロッシェル・カップ女史によるものです。驚くことに、本書は筆者が日本語でそのまま書き下ろしたものになります。当然ネイティブチェックが入っているとは思いますが、その日本語力には敬意を表したく思います。著者の過去の執筆本を調べると、過去に20冊ほど日本語で出版しています。
さすが、Japan Intercultural Consulting社と日本を社名に入れた会社のトップを務める代表者です。
マネジメント本は世に多く出ています。また、日本人上司と部下との関係を日本人が書いた著作も多くあります。しかし、外国人が日本人向けに「日本人上司よ、職場ではこうあれ!」と書いた著作は少ないでしょう。その点、本書は稀有な一冊にります。
本書の根底に流れているものは、「以心伝心」や「褒めずに叱る」といった日本人上司の行動様式は、海外、特にアメリカでは機能しないというメッセージです。
ところで、日本には古くから「以心伝心」の他に、「郷にいっては、郷に従え」の格言があります。日本で異文化マネジメントの問題を聞くたびに、「なぜ、日本人は郷に入っては郷に従えないんだ」と思っていました。
しかし、ベトナムで働きながら、この「郷に入っては郷に従え」の格言どおり行動している日本人が多いことに気付かされました。誰もが「以心伝心」は海外では機能しないことを知っているわけです。
実際、「以心伝心」を実際にやっている人などいるのでしょうか?何かを伝える時にははっきり言葉で伝えるだろうし、時には文章にして伝える時もあります。また、「ほめて伸びる」こともベトナムもアメリカと同様です。この程度で褒めてあげるのかという部分で、過剰に褒める時も多いと思います。
では、外国人は日本人が相変わらず「以心伝心」・「褒めずに叱る」マネジメントをやっていると思うのはなぜだろう?この認識のギャップはどこからくるのでしょう?
本書は僕にとってのこのキーポイントには触れられていない。おしい!
ここで勝手に持論を展開させてもらうと、認識ギャップのポイントはシチュエーションだと思います。特に問題やミスが発生した時。この瞬間に外国人は「以心伝心」の指示だったから、問題が発生したと考えるんではないでしょうか?もう一歩踏み込むと、問題発生は担当の自分の責任ではなく、指示をきちんと出さなかった日本人上司が悪いと。
僕は世界と日本の価値観二大ギャップが「宗教観」と「非を認めるか否か」だと思っています。これまで数十カ国へ行きましたが、どこへ行っても感じた世界と日本の埋まらない溝です。
幸運なことにベトナムは世界で唯一日本と同じ宗教観を持つ国です。しかし、他の国と同じく「非は認めない」国です。
非を認めるなど世界ではあり得ない。むしろ、非を認める日本が例外なんだと、最近思います。
だから、僕が思う異文化マネジメントとは「非を認める国の人が、非を認めない国の人といかに一緒に働くか」だと思います。
本書のメッセージ「『以心伝心』と『褒めるより叱る』は通用しない」が決して間違っているとは思いません。しかし、異文化マネジメント論としては如何か?と疑問符が付きます。
これだけ言い尽されながら、根本の解決がこれまでなされなかったのも事実です。そろそろ別の根本要因を探り、その要員へのアプローチを図った方がいのではないかと思います。
ところで、本書がいうソフトスキルとは職務遂行能力を指します。具体的には人間関係、意思疎通、指導、評価などを上手に進めるコミュニケーションや、リーダーシップの能力です。仕事そのものではありません。
また、本書にはこれらのケーススタディーが収録されており、テクニカルな点を参考にすることができます。特に「人事評価表」にはその指標もあり、「叩き台」としても利用価値がありそうです。
本書は異文化マネジメント本というより、ソフトスキルマネジメント本と位置付けた方がいいかもしれません。
ソフト・マネジメントスキル―こころをつかむ部下指導法
ロッシェル カップ Rochelle Kopp
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