ASEANマーケティング―成功企業の地域戦略とグローバル価値創造 (マグロウヒル・ビジネス・プロフェッショナル・シリーズ)
2012年の書評1発目は「ASEANマーケティング」。
本書監訳者あとがきの「ASEAN域内の紀伊国屋で次の一冊を買うことになる」とは的を射ている。いや、移動中の機内で本書を読み終え、街に繰り出しケーススタディー。帰りの機内で再読するのも悪くない。
「あえて、世界を気にせず、ASEANに注目し、ローカルに活動せよ」
本書のオビに踊る一言「あえて、世界を気にせず、ASEANに注目し、ローカルに活動せよ」。そう、”あえて”ASEANなんだと。ASEAN仕様、時には個別の国・地域仕様で攻めなければいけない。本書は終始一貫として、このメッセージを投げかけてきます。ところで、気になってしまうのは、この言葉の大前提。母国、例えば、日本で勝てる人や企業のみがASEANで成功するのかという疑問。
本書にはこの前提については触れていません。ぼくは「日本の成功なんて関係ない!」と思います。これはベトナムで仕事を始めてから気付いたことです。
ベトナム人と一緒に仕事をやれるか。ベトナム進出のカギはこの一点に集約されていきます。ベトナム人の文句を言ったところで、何も始まりません。自分をベトナム仕様に変えることができるか。この能力が求められると思います。
そして、未開拓かつ成長を続けるベトナム市場。経験の有無とか能力の有無とか語っているヒマはありません。必要なのは「やる」勇気と、「完結」させる根気。絶対に欠かせない点です。
逆に言うと、僕が今一番ベトナムで苦労しているポイントです。
本書の言葉をかりれば、「世界に共通する人間観を、ローカル仕様に切り替え強化する」となるのでしょう。
新しい概念をどうやってその国・土地に持ち込むか
日本にはあるが、ASEANにはないサービスや商品をどう持ち込むか?空白地帯が広がるASEAN市場で、悩みのタネの一つです。例えば、ベトナムでのコンビニエンスストアの展開。ベトナムにはコンビニが最近までありませんでした。最近はホーチミン市を中心に、Circle K、Shop&Goや日系のファミリーマートが少しずつ展開を始めています。しかし、まだベトナム全土への展開にはなっていません。
本書では「変化」をキーワードにしていますが、この「概念」の導入・変化にはあまり触れられていないのが残念な所です。あえて触れている箇所を上げれば、新しい商品・サービスを導入するなら、以下の能力を備えていなければならないという点です。
- 自社の能力:(手持ちの経営資源で課題を解決できるか、必要に応じて新たな資源を調達できるか)
- リスク対応力:(変わり続け予測がつかない状況で、イノベーション、新規市場の開拓、新たな変化を先取りする能力)
- 無理がきく程度:(市場参入が早すぎたり、自然災害の不可抗力があっても、ビジネスの成長を支える体力と機動力)
地元企業を研究せよ!
本書が強調するのは地元企業を研究せよとのこと。以下、本書が取り上げたASEAN地元企業をご紹介します。
【シンガポール】(3社)
- ブンガワン・ソロ社:(贈答用菓子製造・販売)同社が地元のトップ企業になったポイントを分析。
- ブレッド・トーク・グループ社(コーヒーチェーン店)同社の自国と他のASEAN諸国とのオペレーションを展開していったかを分析。
- ユーヤンサン社(漢方薬製造販売)同社のAEAN展開について分析。
【インドネシア】(2社)
- ジー・サム・スー社(タバコ製造・販売)地元トップ企業になったポイントを分析。
【マレーシア】(3社)
- MBFカード(クレジットカード)地元トップ企業になったカギを分析。
ロイヤル・セランゴール・インターナショナル社(金属工芸)同社のASEAN展開戦略について分析。
【タ イ】(2社)
- バンコク病院(医療機関)地元・世界でも有名な医療機関として認知されたカギを分析
- ブラックキャニオン社(コーヒーチェーン)アジア通貨危機で店舗確保のギャンブルに出た同社。その後のASEAN展開についても分析
【フィリピン】(2社)
- ゴールディ・ロックス社(ベーカリーフランチャイズ)フランチャイズ展開、決済方法、商品開発が成長のカギと分析
- サンミゲル社(フィリピン・飲料製造販売)同社のASEAN展開について分析。企業買収と提携、流通ネットワークの確立がカギと分析
【ベトナム】(1社)
- タン・ヒエップ・ファット社(ベトナム・炭酸飲料「ナンバー・ワン」飲料製造)コカ・コーラとペプシとのベトナム炭酸飲料マーケットのシェア争いを紹介しています。炭酸飲料をビンで初めて販売とか、販売ルートの確立などがカギと分析
ベトナムのタン・ヒエップ・ファット社の「ナンバー・ワン」ブランド(下の写真左から1番目と2番目)。最近はドクター・タイン(下の一番右)も人気があります。僕は個人的に、こっちが好き。
最後に、本書の監訳者洞口治夫氏。元は国際協力分野で活躍されていたようです。本書のあとがきに絵所教授の名前が出てきたことには驚きました。
最近の日本企業の海外展開から、国際協力とビジネスの垣根が下がってきたようです。これまでは犬猿の仲だった2つの分野が、相乗効果を発揮できる方向へ向かえば、日本企業はASEANで上手くやっていけるように思います。ASEAN情報は世界で一番日本が握っているので。
ASEANマーケティング―成功企業の地域戦略とグローバル価値創造 (マグロウヒル・ビジネス・プロフェッショナル・シリーズ)
フィリップ・コトラー ホイ・デンフアン ヘルマワン・カルタジャヤ 洞口 治夫
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